目次
こんな人におすすめ
若手と中堅の間
これからリーダーとして、少人数ではあるけれど人を率いていくけど経験が無くて自信が無い。
まず、人についての理解を深めたいな。
なぜおすすめ?
堂目卓生著の「アダム・スミス」は、アダム・スミスに対する誤解を解くと共に社会秩序を導く人間本性を明らかにすることを目的としている書籍だよ。この本は、アダム・スミスに対する誤解を解くだけでなく、アダム・スミスの人間観・社会観を凄く解りやすく図解付きで解説しているよ。
アダム・スミスというと経済学のイメージがあるけど本来は道徳哲学が専門で、この本を読むと彼の思想を通して、人間の行動に対する理解が深まるよ。
忠犬SE
道徳哲学とは、水田洋によれば、「個人の行動を外から押さえ込むためのものではなくて、各個人が生存と幸福のために営む行動が、他人のそういう行動と矛盾対立せずに、社会的に平和共存が成り立つことが、どうすれば可能かをたずねる学問」のことだが、スミスの『道徳感情論』は、この分野における彼の知見をまとめた著作と言ってもよいだろう。
『経済学の歴史(講談社学術文庫)』 第二章 アダム・スミス 資本主義の発見
読み終わったあとどう感じた?
アダム・スミスのことを良く解らずに誤解していた。
従来のイメージは、世の中を機械的に見ていて、やや冷たい・人間味のない、そして理想を掲げている人のようなイメージがあった。いわゆる死道理を極めた人という認識だった。
しかし、本書を読み進めていくと見方が180度変わった。
世の中を複雑系システムとして捉え、人間や社会に対し素晴らしい洞察力を持ち、その世界観の上で現実的かつ論理的な理論を積み重ねている。活道理を極めた人だった。
また、難解な本からアダム・スミスの思想を読み解いた著者にも敬意しかない。
なぜ、著者がアダム・スミスにたどり着いたのか?
なぜ、このような理解が出来のか?
についても興味が尽きない。次の読書テーマだな。
忠犬SE
結局、どんな本?
- 本書の背景
- 本書の概要
- 本書のポイント
本書の背景①:アダム・スミスについて
アダム・スミスとは
- イギリスの哲学者、倫理学者、経済学者
- 1723年スコットランドの港町カーコーディで生まれる
- 1737年スコットランドのグラスゴー大学に入学。グラスゴー大学でフランシス・ハチソンから影響を受ける
- 1752年グラスゴー大学の道徳哲学教授に就任
- 1759年に『道徳情操論(道徳感情論)』を出版
- 1764年にグラスゴー大学を辞職してヨーロッパ大陸へ。ジャック・テュルゴーの影響を受ける。
- 1766年に故郷のカーコーディに戻り、『国富論』の執筆に千円
- 1776年に『国富論』を出版
- 1790年没。『道徳情操論(道徳感情論)』を第六版まで、『国富論』を第五版まで改訂した。
アダム・スミスが生きた時代
詳細は、アダム・スミスが生きた時代については本書の第一章を見られたい。
本書曰く、「民主化が進み様々な革新で経済が発展する一方、格差と貧困にあえぐ。」という光と闇の時代。
あまりにも現代と似ていた。とのこと
時代の変換点には必ず偉大な思想家がいるものだ。
【補足】アダム・スミスが生きた時代
アダム・スミスはスコットランド出身だが、『経済の歴史(講談社文庫)』を参考に、当時のスコットランドについて簡単に補足する。
- イングランドとの合同(1707年)により、アメリカや西インドなどの植民地貿易に参加できるようになり急速な経済発展を実現
- 経済的な繁栄が自由な雰囲気を創り出し、商業化の進んだ社会における人間性と道徳のあり方について施策を巡らせた「スコットランド啓蒙思想家」(フランシス・ハチソン、デイビッド・ヒューム、ウィリアム・ロバートスンなど)と呼ばれる人々が華々しく活躍
- アダム・スミスもこのスコットランド啓蒙思想家に連なる一人
- アダム・スミスが入学したグラスゴー大学は、新しい学問に敏感な進歩的な教授陣を要していた大学
- 当時、信仰上の理由で差別をしなかったのは、スコットランドとオランダの大学だけだと言われている
スミス研究者によれば、スミスは、「ハチソンから人間性について好意的な見解をとることや、さらに、人間は生まれながらにして有徳であり、すくなくとも有徳たるべき種子を胚胎しているのであるから、真に賢明なる政府は、可能なかぎり干渉をひかえめにして、人間を自由にさせて、その諸能力、諸性向、諸関心を発展させるものである、との結論をだすことを学んだ」ということだが、とにかく、グラスゴーが向上心に燃えたスミスにとって格好の教育機関であったことは間違いないのが事実である。
『経済学の歴史(講談社学術文庫)』 第二章 アダム・スミス 資本主義の発見
本書の背景②:著者
著者の本書執筆までの経歴
- 著者は、堂目卓生(どうめ たくお)、日本の経済学者。大阪大学大学院経済学研究科教授。
- 2003年、アダム・スミスの経済学の思想的基礎についての研究を開始。
- 2008年、「アダム・スミス-『道徳感情論』と『国富論』の世界」出版
- 2003年まではリカードを中心に課税についての論文を多く執筆しているが、
本書の出版以降は「人間研究に基づく経済学」に軸足を移している。同テーマでの記事の執筆や講演多数。
執筆の背景
功利主義から始まる、合理的で利己的な個人を前提とし、最大多数の最大幸福を目標とした、2000年前後の主流派経済学への疑問があった。
功利主義とは異なる思想的基礎をさがしており、アダム・スミスの経済学の思想的基礎に興味持っていたとのこと。
本書の概要
本書の概要は、下記図のようになる。
「道徳感情論」をもとにスミスの人間観・社会観を明らかにし、新しい視座を持って「国富論」を読むことで、スミスの本来のメッセージを読み取り、価値転倒を起こすというものだ。
本書のポイント
本書のポイントは何といってもアダム・スミスの人間観・社会観である。
ちなみに、『道徳感情論』の副題は『人間がまず隣人の、次に自分自身の行為や特徴を自然に判断する際の原動力を分析するための論考』である。これが、本来『道徳感情論』でアダム・スミスが伝えたかったことである。
また、原文によると感情は複数形である。つまり、単一の感情ではなく、複数の感情が連なった諸感情のことを言っている。さまざまな感情が作用し合うことによって、社会秩序が形成されると考えたのである。
そして、「人間がまず隣人の、次に自分自身の行為や特徴を自然に判断する際の原動力」の基になっているのが、同感(共感とも)という心の作用である。
同感とは、他人の感情や行為の適切性を判断する心の作用のことであり、ひとは、成長とともに、自分の気分や好み、あるいは利害によって他人の感情や行為を判断することを避け、冷静で公平な判断を下すようになる。
スミスは、私たちが胸中の「公平な観察者」を通して是認・否認という判断を行うという事実から、「賞賛と非難」を説明した。「公平な観察者」が是認するよう行動するひとを「賢人」、自己欺瞞によって無視するひとを「弱い人」と呼んだ。
「賢人」が社会に秩序をもたらす一方、「弱い人」の欺瞞が、人類の勤労を掻き立て社会に富をもたらすとしている。これがスミスの人間観・社会観である。
個人は、文明社会の発展に貢献したいという公共心にもとづいて活動するわけではなく、自分のために富と地位を求めるにすぎないのだが、知らず知らずのうちに、社会の繁栄を推し進めるのである
「アダム・スミス-『道徳感情論』と「国富論」の世界」 第二章 繁栄を導く人間本性
本書の後半では、このような人間観・社会観を元に『国富論』を読み解いている。
【付録】今回紹介出来なかった本書のキーワード
- 自然法思想。「道徳感情論」にも自然という言葉が多く登場している。
【付録】気になった
- アダム・スミスが存命中に執筆しきれなかった「人間観・社会観のもと、富を獲得するための、法と統治の一般理論」とはどんなだろうか?