我々は、「子孫を残す」といった生物的な目的や、「お金を稼ぐ」というような人間特有の社会的な目的を持って生きています。
大なり小なりある目的を達成するためには問題解決が必要です。
生きるとは問題解決の連続だと言えます。
近年AIという言葉を聞かない日はありません。
AIは既にある領域では人間を遥かに凌駕する問題解決能力を持っています。
AIがこのまま発展していくと、どうなってしまうのでしょうか?
以前に紹介しましたが、問題解決という観点で人間の脳とAI(人工知能)との違いを知りたくて「生命知能と人工知能」を読みました。
ハードウェアのアーキテクチャの違いにより、「生命知能(=人間の脳)」では、状態に合わせて脳のダイナミクスの利用方法を最適化しているため、 AIとは異なり多様な問題に対応出来ることが大きく異なります。
また、生物の脳は、タイムスタンプを付与したうえで意識の世界で世界で現実世界を再構築していると思われます。この意識システムにより未来が予測できるようになりました。その結果、「生命知能」は未体験の問題を想像して学習出来るようになりました。
しかし、ここでAIとは異なり人間の脳だけが持っている機能についての問いが湧き出てきます。
問①:どのようにしてダイナミクスを生んでいるのか?
問②:どのようにして現実世界を再構築しているのか?
問③:どのようにして未来の世界を予測しているのか?
本記事で紹介する「脳は世界をどう見ているのか」は上記3つの問に対して答えてくれる本ではないかと思っています。
目次
「脳は世界をどう見ているのか」の概要
本記事で『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』を紹介します。
著者について
著者は、ジェフ・ホーキンス、1957年、ニューヨーク生まれ。大学で電気工学を専攻。
本書によると、インテルに就職直後、DNA研究で知られるクリックの小論(「脳について考える」)を読んで刺激を受けた ようです。
「脳について考える」(クリック、1979年)
詳細な知識は着実に蓄積されているが、人間の脳の仕組みはいまだにまったくの謎である。
とくに足りないのは、こうした結果を解釈するための考え方の大まかな枠組みである
大まかな経歴
- 1986年:カリフォルニア大学バークレー校の神経化学博士号プログラムに登録
- 1988年〜1992年:業界初のタブレットコンピューターを開発
- 2002年:レッドウッド神経科学研究所(RNI)を設立
- 2005年:RNIをUCバークレーに移動
- 2005年:ヌメンタ(独立系の研究会社)を創設
- 目的①:新皮質の仕組みの理論を構築すること
- 目的②:脳についてわかったことを、機械学習のと機械知能に応用すること
- 2010年:ニューロンの予測についての発見(一〇〇〇の脳理論につながる)
- 2016年:新皮質に地図のような座標系があるという発見(一〇〇〇の脳理論につながる)
- 2019年:脳の原理の機械学習への応用に着手、本書執筆着手
出版社・発行日
早川書房 (2022/4/20)
333ページ ※ページ数よりも読むのは大変
本書の概要
本書は、タイトルにもある「知能の一〇〇〇の脳理論」を中心に書かれた本です。
なんと、あの「利己的な遺伝子」で有名なリチャード・ドーキンスが序文を書いています。
まず、「知能の一〇〇〇の脳理論」の導出の経緯を簡単に説明します。
著者ホーキンスは、1982年にマウントキャッスルの「意識する脳」(1978年出版、100ページの小さな本)を初めて読んで、大きく影響を受けました。
ダーウィンは、生命の多様性はひとつの基本アルゴリズムのなせる業だとて提案しました。マウントキャッスルは「意識する脳」で、知能の多様性もひとつの基本アルゴリズムのなせる業だと提案しました。
知能と結びつくものはすべて、表面的には違うように見えるが、実際には同じ基本的な皮質アルゴリズムの現れである。そして、皮質アルゴリズムの場所に関して、知能の単位は「皮質のコラム(柱状構造)」だと主張しました。
皮質コラムについて
・面積:1平方ミリメートル
・厚さ:2.5ミリ
・容積:2.5立方ミリ
・新皮質に15万個の皮質コラムがぎっしり並んでいる
・コラムそれぞれはさらに数百のミリコラムに分かれている
・大きさのイメージ
コラム:細いスパゲッティ
ミニコラム:髪の毛1本のさらに細いもの
・ミニコラムそれぞれにすべての層にまたがって伸びる100個余りのニューロンが入っている
・ミニコラムは物理的に区別できる
・コラムは物理的には区別できないが存在していることは確か
ホーキンスは、クリックの小論から刺激を受け、脳と同じように働く知的機械をつくることが出来るくらい、新皮質が何をどうやって行うかを理解する方法を追い求めていました。
マウントキャッスルの「新皮質が普遍の原理にもとづいて働く」「知能の単位は皮質コラムである」という仮説と、自身の「予測は新皮質の普遍的な機能である」という発見から、
<新皮質がどう働くのかという疑問に答えるイシュー>
膨大な数のほぼそっくりの皮質コラムからなる新皮質は、どうやって動きから世界の予測モデルを学習するのか?
を設定しました。
このイシューから、発見と疑問を繰り返して、最終的に
<イシューの解につながる重要な理論>
新皮質はすべてのコラムで位置と座標系を表現している
という考えを導きました。(実現方法は執筆時点では解明に至っていないが、非常に多くの制約 – 問題に対する解決法が対処しなくてはならないもの – を解決するので正しいと確信している。)
そして、この新しい見方から新皮質の仕組みとどうやって新皮質が世界モデルを学習するかについての新しい理論「知能の一〇〇〇の脳理論」を導きました。
「知能の一〇〇〇の脳理論」の一部を抜粋
・すべての皮質コラムが物体全体を学習して認識することができる
・物体のごく一部だけを感知するコラムが、時間をかけて入力を統合することによって、物体全体のモデルを学習できる。
・新皮質には、どんな物体についてもたくさんのモデルがある。そのモデルは別々のコラムの中にある。
・コラムそれぞれが完全な感覚運動システムで、何かの知識は一箇所ではなく数千のコラムに分散している。(それでも全コラムの一部)
本書は「知能の一〇〇〇の脳理論」を中心に3部+最終章で構成されています。
なかなかに難解なので、構成については本書をそのまま引用します。
第1部では、座標系の理論、われわれが「一〇〇〇の脳理論(Thousand Brains Theory)」と呼ぶものを説明する。この理論は論理的推論にもとづいている部分もあるので、われわれが結論に達するまでの足どりを案内する。さらに、この理論が脳についての思想の歴史にどう関連しているかがわかるように、歴史的背景も少し紹介する。
第2部のテーマは機械知能である。二〇世紀がコンピューターによって変革されたのでと同じように、二一世紀は知的機械によって変革される。一〇〇〇の脳理論は、なぜ現在のAIはまだ知的ではなく、真に知的な機械をつくるために何をする必要があるのかを説明する。将来の知的機械はどんなもので、人びとはそれをどう使うことになるのか、詳しく語る。なぜ一部の機械は意識をもつようになるのか、それについて私たちがやるべきことがあるなら、それは何かを説明する。
第3部では、脳と知能の観点から人間のありようをみていく。
〜省略〜
一〇〇〇の脳理論の結論のひとつは、世界について私たちが思っていることは誤っているかもしれない、ということである。どうしてそうなるのか、なぜ誤った思い込みは排除しにいくのか、そして原始的な感情と合わさった誤った思い込みはどういうふうに私たちの長期生存にとって驚異なのかを説明する。
最終章では、人間が種として直面する最も重要な選択と考えられることについて議論する。
〜省略〜
人間は遺伝子だけではなく知能と知識によって定義される。
〜省略〜
もし人間を定義するものとして遺伝子ではなく知能と知識を活用する覚悟があるのなら、私たちはより長く続き、より崇高な目的のある未来を創出できるだろう。
目次
- 序文 リチャード・ドーキンス
- 第1部:脳についての新しい理解
- 第1章:古い脳と新しい脳
- 第2章:ヴァーノン・マウントキャッスルの素晴らしい発想
- 第3章:頭の中の世界モデル
- 第4章:脳がその秘密を明かす
- 第5章:脳のなかの地図
- 第6章:概念、言語、高度な思考
- 第7章:知能の一〇〇〇の脳理論
- 第2部:機械の知能
- 第8章:なぜAIに「I」はないのか
- 第9章:機械に意識があるのはどういうときか
- 第10章:機械知能の未来
- 第11章:機械知能による人類存亡のリスク
- 第3部:人間の知能
- 第12章:誤った信念
- 第13章:人間の知能による人類存亡のリスク
- 第14章:脳と機械の融合
- 第15章:人類の遺産計画
- 第16章:遺伝子VS知識
- おわりに
【参考】脳について解っていること
- 脳は古い部位の上に新しい部位を加えることによって進化した
- 脳の最も新しい部位は新皮質
- すべての哺乳類に新皮質があり、新皮質があるのは哺乳類だけ
- 人間の新皮質はとくに大きい、脳の容積の約7割を占める
- 知能として思いつく能〜視覚、言語、音楽、数学、科学、工学〜のほとんどが新皮質で生み出されている
- 新皮質が何かをしたいときは、古い脳に信号を送る
- 古い脳はたくさんの別々の器官が含まれ、それぞれが固有の機能を持っている
- 新皮質は異なる機能を果たすいくつもの「野」、つまり領域に分かれている
- 新皮質の局所回路は複雑である
- 新皮質はどこでも似たように見える
- 新皮質のあらゆる部位が運動を引き起こす
- 調べた全ての領域で、動きに関係する古い脳の部位に投射する細胞が見つかっている
- 新皮質のあらゆる場所に見られる複雑な回路は、感覚運動タスクを行うことを示している
読書上の観点①:脳がダイナミクス生み出す方法
新皮質には約15万個の皮質コラムがあり、各皮質コラムが(位置情報、なに情報、方位情報)をもっている・・・
TBD
読書上の観点②:脳内で現実世界を再構築する方法
複数の皮質コラムが投票して決めている・・・
TBD
読書上の観点③:脳内で未来の世界を予測する方法
感覚入力の特徴から位置判断、方位と位置情報から未来の特徴を予測する・・・
TBD
まとめ
本記事では、『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』を紹介しました。
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